「寄り添うふりの市政」に、障害者の声は届くのか

「寄り添うふりの市政」に、障害者の声は届くのか

子どもには拡大、障害者には削減。それが森市長の“選別行政”

「市民の声を聞く」と言ったその口で、
声を上げられない市民を切り捨てるとは――。

◆ “助けられていた制度”が削られるという衝撃

館山市で約半世紀にわたり続けられてきた、中軽度障害者への医療費助成制度。
それはただの金銭的補助ではない。日々の通院、精神的な安心、そして「この町は自分たちを見捨てない」という象徴だった。

しかし今、その制度が**“コストに見合わない”**という理由で、事業仕分けの場に呼び出され、“整理対象”とされている。
その判断の先頭に立っているのが、「寄り添う市政」を掲げて当選した森正一市長である。

◆ 仕分けの現場で起きていたこと

2023年、館山市が実施した事業仕分けの議論では、この制度についてこう整理された:

  • 制度の利用者は約900人中385人(利用率42%)

  • 利用しない理由の調査は未実施

  • 手続きが煩雑、窓口負担が障壁になっている可能性も指摘

  • 年間予算:約2500万円、うち人件費600万円

  • 他市町村では実施されておらず、「館山だけが残っている」と説明

だが、議論のなかで最も切実だったのは、市民=当事者の声だった。

◆ 傍聴者が語った「現実の声」

会場にいた一人の女性が、涙をこらえながら発言した。

「私の息子は先天性の障害があります。30歳を過ぎてからも、加齢とともに新たな障害が増え、東京の病院まで通わなければならないこともある。この制度がなければ、通院も治療も成り立たない。削減されたら生活が立ち行かなくなる。」

さらにこうも訴えた。

「今回の仕分けの話が出てから、他の障害当事者の家族からも“制度がなくなると困る”という声が多数寄せられている。
それなのに、“制度の意義”が議論されることなく、“使っていない人が多いから見直し”なんて、おかしいと思う。」

制度を「数字」で切り取る仕分け人に対し、彼女の言葉はこう問いかけていた。

「たった600円の支えすら、奪うつもりですか?」


◆ 事業仕分けの判定結果(全39票)

判定区分 内容 票数
① 不要・凍結 制度としての継続不要 9票
② 県との連携 館山市単独でなく県レベルで再構築 4票
③ 実態把握の上で継続 必要だが、利用者実態をまず調査すべき 21票
④ 現状維持 このまま継続 4票

➡ 削減に“イエス”を出したのは少数派。
だが、市はこの結果を“見直しの根拠”にしようとしている。

◆ 子どもには拡大、障害者には削減――“二枚舌”の福祉政策

森市長は選挙公約として、こう語っていた。

「高校生までの医療費助成を拡大したい。」

一方で、障害者への医療費助成には削減の判断が迫られている。

同じ「医療費助成」でも、“守られる人”と“削られる人”がいるのはなぜか?
“声の大きさ”が支援の有無を決めるなら、それは選別であり、排除ではないか?


◆ 「大きな事業は止めない、小さな事業は見直す」の欺瞞

森市長はこうも述べている。

「進んでいる大きな事業を、すぐにストップする考えはない。」

ならば問いたい。
なぜ2500万円規模の“ささやかな支え”から切り捨てようとするのか?
それは、最も声を上げにくい人々への支援だからではないのか?


◆ 図表で見る:館山市の“選別福祉”の構図

◯ 図1:対象者と利用者(R4年度)

  • 利用者:385人(42%)

  • 未利用者:530人(58%)

◯ 図2:制度費用と効果(R4年度)

指標 金額または件数
年間予算 約2,500万円
1人あたり助成額 約60,000円
自己負担(1回) 600円
申請回数(計) 約1,400件

◯ 図3:他自治体の実施状況(千葉県内)

自治体 実施状況
館山市
南房総市 ×
鴨川市 ×
木更津市 ×

◆ 結び:「寄り添う市政」を問う

森市長は「市長と話そうの会」を掲げ、市民との対話を約束した。

では、なぜ――
この仕分けの前に、障害当事者との対話を持たなかったのか?
「話そう」と言ったのに、なぜ“切る前に聴く”をしないのか?

選挙で語った“寄り添う”とは、「選び取ること」だったのか。
それとも、「削る人を間違えない」ことだったのか。


市民の中の“静かな声”にこそ、政治は耳を傾けるべきだ。
600円の支えに詰まっていたのは、「暮らし」と「誇り」だったのだから。

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